空論オンザデスク

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子育て、親育てを中心としたブログ 教育本、子育て本、鉄道もの、プラレール、トミカ系おもちゃなども。

夜は妄想の時間。日常の向かい側のホラー

その晩は月夜だった。ほどよく浮かんだ雲に白い月光が反射して明るい夜空が広がっていた。
帰宅する道すがら、ふと見ると巨大な獣が横たわっていた。
もちろん、それは獣などではない。マンションの建設現場に置かれた大型の重機だった。差し渡し15メートルはある現場の幅一杯に、それは長いアームをだらりと伏せてうずくまっていた。
そんな、さして珍しくもない光景のはず。だが、冷たい月明かりに濃い陰影を作り出されたその姿は、まるで身を休める危険な野獣を思わせ、見るものを身震いさせるのに十分な不気味さを持っている。
武骨なほどにむき出しになった腕に、黒光りするごつごつとした爪。ところどころに灰色の泥がこびりつき、剥げかけた塗装の裏から濃緑の錆がのぞく。野生の獣の寝姿特有の、油断のない姿勢。安らかそうな寝息とはうらはらに、もし安易に近づこうものなら一瞬で息の根を止められてしまう凄み。
昼間、人間に使役されているときには気づきもしない、重機たちの腹のなかにはこんなにも人知れない恐ろしさがひそんでいるのかと身震いし、その場を去って足早に家路についた。