しとしとと雨の降る日はこの歌を聴く
サイモン&ガーファンクルの「Cathy's Song」
Simon & Garfunkel - Kathy's Song - YouTube
10年以上前のこと、精神的なある種の危機を迎えていた10代後半の私は、狂ったようにこの歌を聴いていた。
訳詞のカードは手垢だらけでくしゃくしゃになり、CDプレイヤーは酷使に耐えかねて音とび気味だった。
2分そこそこの小品が、機械的なリピートに従って半永久的に私の部屋を満たしていた。
こぬか雨の音を聞いている
雨音は思い出が降るように、
ぼくの部屋の屋根と壁を叩く
雨音が心を叩く
思いは千々に乱れ、
雨に濡れた通りを越え、
何マイルもの彼方へ
ぼくの心の置かれたイングランドへと
あなたのもとへと
あなたが眠るときはともに横たわり、
あなたの目覚めるときはキスをする
ぼくの書いた歌はなんだったのか
みな破かれ打ち捨てられたまま
今はなにもかも信じられない
ぼくの知る唯一の真実はあなた
歌を思い出して、あの頃の記憶を呼び起こそうとしてみる
恋人は次第に離れ、それは自然の摂理のようにゆっくりと着実で、私なしで成長してゆく彼女を見守るほかなかった。
この歌の詩は完璧だと思う。なにげなく静かに遠慮がちに語りかける言葉のひとつひとつが、心をゆさぶる。ポール・サイモンの声もまた、淡々として自然。まるでこの肩を濡らす今日の雨のようだ。だが肩を濡らした雨は乾くことなく膚に滲み、やがて身体全体をしめらせてゆく。あのときの思いのように。