ゴーン・ガール 原作の感想
はじめにお断り
この記事はストーリーそのもののネタバレは含みませんが、読んだ前提での感想ですのでこれから読む予定の方、察しの良い方は読むのをお控えください。
読後感。
浦沢直樹さんの「MONSTER」に似た悪人像だと思う。
心理的なテクニックによって人間を思うがままに操るという手法を、悪魔的なまでに使いこなす。彼らは心の機微を知り尽くし、どのように接すればその人間の弱点を掌握できるかを知り尽くしている。逆説的に、自らは人間的な感傷とは程遠く、あくまで冷徹に目的を達するために他者を操る。
我々は、これまでそういう人物が時折登場し、英雄としてあるいは犯罪者として名を残したことを知っている。ほしいままに人間を支配して破滅に追いやっていく姿は、文字通りの「冷血」としか表現できない。けれどこの小説は、そういう恐怖小説だけでは終わらない深みを持っていると思う。憎しみが強ければ強いほど、その相手のことを懸命に考え、逆説的だが相手に近づいていくことになる。相手を消し去りたいという感情が強まるほど相手に捉われていくことになる。
本当のテーマは「愛」
「見ているあなたは騙される」的な、演出上のトリックは映画版のウリであって、原作の方はあくまで、ややそういう仕掛けを狙った筋が見えるのはあるにはあるが、あくまで愛と憎しみのエスカレートであり、それが幸せな結末に結びつくか否かは別として、人間の感情というものの持つ矛盾だったり奥深さというものだったと思う。だからこれを単なる夫婦の愛憎劇だったりよくあるサスペンスだと思うと、別の意味で裏切られるし、結末に至っては「わけがわからない」「煮え切らない、結局何なの」となるだろう。本当のテーマは、「真実の愛は人をして目を曇らしめるのか覚まさしめるのか」であろうと勝手に結論してみる。