自分の仕事に自信を持ちたいときに読む本
「 なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」を読んで
なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である
- 作者: 中島聡
- 出版社/メーカー: 文響社
- 発売日: 2016/06/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この本は、「仕事がほんとに終わらなくて困っている人」が読むべき本でなく、「仕事がちゃんと終わってる人」が、「あ、自分のやり方は間違ってないんだな」と確認するための本である。
と、えらそうに断定してしまいましたが、とかく世のビジネス書、自己啓発書というものは、すべからくそういう性質を持つものだと思います。
ビジネス書には、「まるっきり極論」も書いてなく、かといって「ベタベタな正論」もありません。世の中の常識としてまかり通っている正論に対し、ちょっと違った視点で切り込んで見せる。ちょっと今までとは違う寄り方で偏ってみる。そうすることで、「新しく見えて、かつ受け入れやすい」という内容になるんだと思いますし、あとは上手いタイトルと販売戦略がものを言うのでしょう。
そういう視点でみると、結局この本が言っているのは、「仕事は早めに取り組んで早めに仕上げる」ということであり、これは誰もが一度は言われたことがある「夏休みの宿題は早めにやってしまいなさい」ということとさしたる違いはないでしょう。
ところが、ここに「Windows95」の仕掛人という権威付けがあり、筆者の豊富な経験からもたらされる多彩なスパイスが本書に魅力的な味付けをしているんだと思います。
ビル・ゲイツのエピソード
特に、「ビル・ゲイツの意思決定は光速だった」という逸話は非常に興味深いものがありました。
Windows95の開発が行われていたころ、マイクロソフト社内には2つの開発グループがあり、互いに競い合っていたそうです。1つは「シカゴ・グループ」と呼ばれ、もう1つは「カイロ・グループ」と呼ばれていました。「シカゴ」はマイクロソフトの古参プログラマーから成り、いわば正統派。カイロは新参のスタッフから成り、コンピュータおたくやハッカーのような経歴を持つ人々からなる非主流派集団でした。
2つのグループの開発思想がマイクロソフト上層部の会議で俎上に上げられ、その場で即座に「シカゴ」のプランが却下されたそうです。
それまでマイクロソフトの一線で活躍していたエンジニアたちが、膨大な時間をかけて作ってきたものを、その場で切り捨てるという決断でした。
それが結果として、Windows95の大成功につながったとすれば、まさに神のような決断力でしょう。筆者もまた、自身が「カイロ」の一員だったという立場もあるにしろ、そういう見方でこのエピソードを語っています。
しかし、これを単に「偉人伝」「成功譚」としてだけ語ってしまうのには一抹の違和感が残ります。
ビル・ゲイツが「光速の」意思決定を下せたのは、彼がマイクロソフト社の創業社長という、ほとんど専制君主に近い権力を持っていたからこそできたことであり、それら周辺事情を無視して、「見習いましょう」とはできない相談です(筆者はそうは言っていませんが)。
また、基本的にはプログラマーという、1人で取り組む仕事のタイムマネジメント術がこの本の主題であるのに対し、このエピソードは経営者の意思決定というフィールドであり、両者の仕事は次元が違うと言わざるをえません。
もちろん、本書の他の大部分は主題に沿ったものになっていますが。
ともあれ、この本には、実践的で役立つ知恵がふんだんに盛り込まれていることには間違いありません。自分なりの読み方で是非お手に取ってみてください。