空論オンザデスク

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格差社会に立ち向かう最後の砦は、「先生」である

 格差社会の壁を打ち破る可能性は「教育」にあり、教育の格差を埋めることができるのは「教員」の力であるというお話です。

 

格差社会、知識社会

 

すでにあらゆる場面で言われているように、世の中の格差は拡大しています。

トマ・ピケティは「21世紀の資本」で、資本収益率が成長率を上回るとしてその理論的な根拠を固めました。

彼の本によれば、社会の経済的な格差を表す値は、20世紀の初頭で高止まりを続け、その後両大戦期を通じて下がり、80年代ごろより再び上昇に転じたとあります。

 

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20世紀初頭の社会は、貧しい労働者がどんなに頑張っても決して埋めることのできない格差が存在したといいます。

 

これからの社会もそうなっていくのでしょうか。

  

以前の格差社会の構造と現代のそれとのもっとも大きな違いは、格差をもたらす大きな要因の1つが「情報と知識」であることです。

 

より多くの有益な情報を早く手に入れた者が最大の利益をあげることができる、これは現代社会の特徴ではないでしょうか。これは何も、投資や事業などの大きな話だけでなく、例えばスマホを買うなどという身近な行動についても言えることです。複雑怪奇なキャリア各社の料金プランを比較対照し、どれが自分にとって得なのかを選び出す作業は、高度な情報収集力、分析力を必要とします。それがない人は、キャリア販売店の窓口で「カモ」にされ、不必要なオプションプラン山盛りのバカ高い料金を請求されることになります。

しかし逆に、情報や知識に対する正しい運用法さえ身についていれば、それらを活用して生活を変えることができるのも現代の特徴です。これは何もネットで億万長者になるとか、そういう一握りの天才のことを言っているのではなく、知識や情報を扱う能力の全体的な底上げを図ることで、結果として格差を縮めることができるということです。単純化しすぎかもしれませんが、スマホの契約で月1000円の余計な出費を強いられている人々が、それに気づいて解約することさえできれば、1000円分の可処分所得を手に入れるに等しく、その分の格差が縮まるということです。

 

教育の力と問題点

 

前述のような「情報・知識」を扱う能力は、もちろん教育によって身につくものです。スキルは、一度身についてしまえば減ることはありません。それを使って何度でも、無限に自分の生活をより良いものにするチャレンジを行うことができます。

しかし一方で、教育の世界においても様々な格差が存在します。

日本の子供の貧困率は先進国の中でも高く、特に母子家庭でそれが顕著だと言われます。母親の収入が十分でなく、家族の生活を支えるためにいくつもの仕事を掛け持ちせざるを得ず、結果、子供の教育にかけられるお金も時間もないということになってしまう。以前の記事で、「幼児教育の重要性」について書きました。

 

unbabamo189.hatenablog.com

 

幼児教育といっても、なにもピアノやら英語やらの習い事のことだけでなく、むしろ自制すること、やり抜くことを、生活の中で身につけていくことが重要だと述べました。それらはお金をかけることでも得られるでしょうが、幼児期においては家庭での保護者の役割が大きい。しかし、生活のためにかつかつの家庭では、そのどちらも与えることができない。親が外で仕事に身をすり減らしている間に、家では子供がテレビを見続けるだけの生活で、大切な心身の成長の機会が奪われていってしまう。

 

そういう様々な環境要因があって、必要な教育を受けられない子供が増えています。そういう子が成長し、収入の少ない仕事にしか就けない、あるいは望まない妊娠をして、母子家庭になることを余儀なくされると、当然ながら、今度は自分の子供の教育に十分な投資ができない。このように、教育の不足と貧困はいつしか「負のスパイラル」となり、格差が固定していってしまうのです。

 

最後の砦は「先生」である

 

「学力の経済学」では、このように書かれています。

 

遺伝や家庭の資源など、子ども自身にどうしようもないような問題を解決できるポテンシャルを持つのは、「教員」だということです。

 

私は、この一節を読んだ時、思わず体が震える思いがしました。教育の世界の片隅に身を置く者として、それだけの責任を果たせるのだ、ということに、なんとなく粛とした思いを抱いたものです。

 

「良い先生」と出会い、教えを受けることは、その子の人生を変える力があり、それを統計学的に裏付けた研究が、やはりアメリカにありました。

 

アメリカでは、教員ひとりひとりの」付加価値」がすべてウェブ上で公開されているそうです。「付加価値」とは、担当した生徒のテストのスコアをどれだけ伸ばせたか、それを総計した値のことです。これは日本ではあり得ない話ですね。先生たちにしても、自分の「通知表」がネットに全部でてしまうのですから、ひと時も気を抜けないでしょう。

 

ともあれ、こうして得られたデータから、様々な研究がなされました。その中で、教育の「付加価値」によって、担当した生徒のその後の人生がどう変わるのかを調べたものがあり、その結果は驚くべき者です。

 本書いわく、

 

付加価値が教育の質の因果関係をとらえるのに、極めてバイアスの少ない方法であることを明らかにしました。

 

と述べ、そして

 

質の高い教員は、ただ単に子どもの学力を上昇させているということにとどまらず、10代で望まない妊娠をする確率を下げ、大学進学率を高め、将来の収入も高めているということも明らかにしました。

 

と述べています。さらに、

 

付加価値でみたときに下位5%に位置する教員を、平均的な教員に置き換えるだけで、子どもの生涯収入の現在価値を、学級あたり2500万円も上昇させることができると推計しています。

 

 

 と続けています。アメリカのひとクラスの人数は、州や学年によっても違いますが、概ね15〜22人です。ですから、生涯収入で一人当たり100万円程度ということなので、もちろん個人の立場で見れば大した違いはないかもしれません。

しかしそういった問題はさておき、教員の質が高ければ、子どもが背負わされた遺伝や環境のビハインドをはねのけ、自分の人生をより良いものにしていけるチャンスを与えられる可能性があることは確かでしょう。

 

 我が子に生きる力を

 

さてここからは、子供を持つ親として書きたいと思います。

これまでの話を前提とすれば、もちろん「良い先生」にめぐり合わせてやりたい。しかし、私学に進学することを除けば、それは親の意志ではどうにもならないことでしょう。先生は人間ですから、それぞれに差があるのは当然のですし、教員の配置は自治体の政策によって決まるのですから。

唯一方法があるとすれば、「良い先生」が増えていくような政策を支持するということがあり得ます。

教員という職がもっと魅力的なものとなり、多くの能力とやる気のある人が先生を目指すような社会になれば、付加価値の高い教員が増え、結果として我が子を受け持ってくれる確率も高まるでしょう。

今の先生方は大変です。どんなに能力が高くても、様々な仕事を抱えて身動きが取れない状態にある方も多い。

そういった問題に光を当て、解決していくことが、格差社会に対抗できる唯一の方法なのではないかと思います。

 

↑「学力」の経済学 中室牧子著 画像クリックでアマゾンのページに飛びます 

 

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