こたつを出したら子供が絵本を読みだした
こたつを出したら子供が絵本を読みだした
我が家は子供が生まれて2年ほど、こたつを出さない冬を過ごしてきました。
1歳、2歳の子供がいる環境にこたつ、というのはちょっといろいろ怖かったからです。
そして3歳になった今年、ひさかたぶりにこたつがお目見えしました。
さぞや物珍しそうにするかと思いきや、まるで慣れ親しんだ毎年の出来事のように、本棚から絵本を引っ張り出してきて、こたつの一角に着いたのです。
さすが日本人。使い方を習ってもいないのに、遺伝子にこたつが刷り込まれているのでしょうか。
ただ、子供が座ってきちんとテーブル面を使うためには、こたつというのは若干高いものです。豆イスは必須のアイテムです。
こたつを出すと、なんとなく「じっくり座って何かに取り組む場所」ができる雰囲気ができあがります。「何か」というのはもちろん自堕落ななにかだったりすることもあるんでしょうが。ともかく、子供と落ち着いて一緒に絵本を読んだりお絵描きしたりするには、これほど良いアイテムはないかもしれないと思いました。
一回足を突っ込んだらなかなか出る気になれない、というこたつ独自の特質も一役買っているのでしょう。
日本にはこたつがある
こたつというのは、日本だけにあるものだと思っていました。
上の記事を読むにつけ、なるほど日本らしい風土が生んだ暖房器具なのだと得心がいきます。
日本の家屋というのは、全部が全部夏を基準に作られていたんですね。
風通しが良く夏を快適に過ごせるよう工夫した日本家屋は、一方で冬の耐え難い寒さをも屋内に呼び込むことになり、どんなに暖房を焚いて空気を温めても、全部すきま風に持って行かれてしまう。
囲炉裏というのも大変すぐれた発明です。暖房に限らず、調理全般、煤で害虫退治、家族団欒など一台で何役もこなせるこんな設備はあんまり見られないでしょう。
その囲炉裏に衣服なり布団なりをかぶせて、熱が逃げないようにしたのがこたつの始まりだそうです。
すきま風がひゅうひゅうと吹きこむ上に、裸足で地べたの上の生活だから、さぞ下半身が冷えた事でしょう。たしかに、そこへ行くとこたつは絶好の暖房器具です。
また、熱を無駄にしないという意味で、コストパフォーマンスに優れた暖房だったとも言えるでしょう。
こたつの弱点
良い事ずくめのようなことばかり書いてきたこたつですが、一つ大きな弱点がありました。それは、「火事になりやすいこと」です。
電気こたつが普及する前は、こたつと言えば真っ赤になった炭を使うものでした。それこそ囲炉裏の延長線です。赤々と燃える火だねが目に見えない場所にあれば、うっかり蹴ってしまうこともあったでしょう。
江戸時代、こたつを出す日を「戌の日」と決めていたのも、火災を逃れるための一手段だったとのこと。
しかし戌の日だろうがなんだろうが、冬は空気が乾燥するし、まして当時の家屋のほとんどは木と紙でできていたわけですから、こたつだけでなく火鉢や煮炊きの日が燃え移って火事になる事はしょっちゅうあったはずです。
こんなに火事になりやすい条件がそろっているのに、こたつが使われ続けたのはなぜでしょう。まあ、ほかに選択肢がないということもあるでしょうが、私は、江戸人には火事を恐れない精神性があったのではないかと思っています。
「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉もあるとおり、もちろん火災は恐ろしいものですが、江戸の民は火災を必要以上に恐れず、「燃えてしまったらまた建てればいいじゃないか」程度に受け止めていたのではないかと思えるフシがあります。
実際、明暦の大火以降、あらゆる対策が講じられているのにもかかわらず、江戸では何年かに一度大火に見舞われ、街のかなりの部分が繰り返し焼失しているのです。
日本人は古いものにこだわらず、滅びゆくものを追わず、森羅万象の流転を受け入れるという精神性を色濃く持っています。変化を恐れず、ただ目の前の環境に適応する。
まるで突如現れたこたつを前に、ちゃっかりふとんに入って絵本を広げたわが子のようではありませんか。日本人だなあ、という結論に至った冬の日でした。