空論オンザデスク

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意外と分からなかった「著作権」について(その1)

今回読んだ本はこちらです。

著作権の世紀

著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)

著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」 (集英社新書 527A)

情報が瞬時に複製され配信されることが可能な現代では、著作権の保護は必要不可欠なものです。
 
もしこれがなかったら、大金を注ぎ込んで製作した大作映画や一生かかって書き上げた長編小説などがあっという間にコピーされて勝手に販売されてしまいます。創作しても全く大損で、下手をすれば生きて行くことすらできません。
 
このように創作者の権利を保護し、その結果として創作意欲を後押しして人間の創造性を高めていくという崇高な使命が、著作権にはあります。
 
一方で、著作権があるのかないのかの判定基準があいまいだったり、作品を利用するときの著作者の許諾を得るのが大変だったりと、制度としての問題点も大いにあるところです。
 
本書はそのへんのところを丁寧に解説してくれていますが、自分が特に注目したトピックについていくつか取り上げたいと思います。
 

フィギュアに著作権はない? ー著作物かどうかの境界線ー

 ・オリジナルな表現は著作物になるが、広く一般的でありふれた表現は著作物にはならない。という原則があります。その原則をもとに考えると、
 
①単なるスナップ写真は、裁判所で争って著作物であると認められた。
→単に何気なくパシャりと写しただけの写真でも、撮影者に著作権が認められ、被写体になった人の「肖像権」とは別個の権利となる。ある人物写真を自分のサイトなどに載せようと思ったら、撮影者と被写体の人物の両方に承諾を得る必要がある。
 
②実用品のデザインは、基本的に著作物には当たらない。
車や家具のデザインは、作っても著作物にはならないため、意匠権実用新案権を取得する必要があるということ。役に立つデザインならば創作者が独占せずに広く社会で共有すべきだという点で私的独占に向かない。
 
③実用品だとしても、一点ものの作品や高度に芸術性があるものは著作物である
→②の例外。
 
以上の3つの点をベースに、フィギュアが著作物であるかどうかが争われた。いわゆる「海洋堂フィギュア事件」である。
海洋堂の製作した食玩フィギュアのうち、「妖怪」と「不思議の国のアリス」「動物」について、著作権があるかどうかが争点になったこの裁判では、なんと「アリス」と「動物」の2つのシリーズについて著作権が否定された。理由として、一つ目は元になる作品や写真を参考にして製作されているため、オリジナリティが低いと判断されたこと。もう一つは、お菓子のおまけであるため実用品だと判断されたこと。
「菓子のおまけなら実用品」というのは、要するに菓子と同一視されてしまった結果だということで、あまりにも乱暴かつフィギュアというものの表現力を考えていないことが分かるが、それが裁判所の判断というものなのかもしれない。
一方、著作物だと認められた「妖怪」は、独自の表現であることが認められた。
 
↓のサイトに写真が掲載。確かにこれを創作と言わなかったら罰が当たりそう。 
 

入試の過去問集が歯抜けなのは何故か。ー著作権処理の困難さの正体ー

 著作権は、著作者の死後50年まで保護される。その権利は相続人に受け継がれ、原則として相続人全員の共有という形になっている。したがって、亡くなってしまった作者の著作物を利用したいということになったら、相続した人全員の承諾を得なければならない。
 
これがどんなに大変なことか想像に難くない。亡くなって数年の人ならまだしも、数十年経っている人ならば、その相続人すら亡くなってしまっているケースだってある。その場合、孫の代まで著作権は相続されることになる。許可を得なけらばならない人数は極端に多くなってしまう。
 
その、相続人を探す手間、それにかかるコスト=サーチコストと、全員と利用交渉しなければならない交渉コストそれらが大変に馬鹿にならない。
 
ところで、著作権の保護には幾つかの例外がある。こう言う場合ならば著作権者の許可なく利用することができるという場合だ。
 
・私的利用のための複製、図書館等における複製、引用
・教科用図書等への掲載、教育機関における複製等、
・試験問題としての複製等、視聴覚障害者のための複製等、
非営利目的の上演・上映・貸与等、政治上の演説等の利用、
・事件報道のための利用、美術の著作物等の原作品所有権による展示、
・公開の美術の著作物等の利用、プログラムの著作物の複製物所有者による複製等、ネットの検索事業者による複製等、
その他

上記のような場合には、著作権者の許可なく利用することができる。

以外と、結構な範囲の例外規定がある。これらの中で、赤字の部分に注目したい。試験問題の中に使う分には著作権者の許可は必要ないが、それを改めて本にして出版するとなると話は別。きちんと許可を得なければならない。

死後50年が経って著作権が切れてしまった作品ならばそういう心配はないし、現在存命中の作者でも、利用を認めないポリシーをお持ちの人以外ならば許可を得るのは比較的容易だが、その間の人の場合は前述したように著作権処理が非常に困難になる。

結果、入試問題集の国語には、著作権処理が行えず、問題文だけが歯抜けとなってしまったものが少なくない。

そのくらい、著作権というのは強力かつ厚く保護されている権利なのだ。

 

 長くなったので(その2)に続く

 

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